東京高等裁判所 平成11年(う)448号 判決
被告人 柳田利則
〔抄 録〕
関係各証拠によると、被告人が、原判示の日時ころ、本件駐車場の前を通りかかって同駐車場内に入り込んだ上、同駐車場内に置かれたアイスクリームボックスの上の本件現金を手に取ったことは明らかである。
《中略》
関係各証拠によれば、本件駐車場は、八世帯が居住する四階建て賃貸マンションの一階に設けられ、二枚のシャッターがその北側出入口に設置された屋内駐車場であり、本件当時は、自動車一台及び大型ボート一艘が入れられていて、他の自動車が入る余地はなく、右シャッターのうち東側一枚が開き、他の一枚が閉まっており、駐車場内の照明が点灯されていたこと、本件駐車場と壁一枚を隔てて東側に隣接する区画内に道路に面して設置された自動販売機付近では、右自動販売機を管理する鈴木幸雄がジュースを補給する作業をしていて、かなりの音を立てていたこと、右アイスクリームボックスは高さ約九五センチメートル、奥行き約七〇センチメートル、幅約一〇〇センチメートルの大きさで、本件駐車場の東側壁面に沿って西向きに置かれており、その北端は歩道側端から約二メートルの位置にあったこと、右アイスクリームボックスの上に置かれた本件現金は、束のまま二つ折りとなっており、その上に、二つ折りにした千円札より一回り大きいキーケース(縦約八センチメートル、横約一四センチメートル)が置かれていたこと、本件現金の道路側には箱等の物品が置かれ、右キーケースの存在はこれにより道路からは見難くなっていたことが認められる。
《中略》
鈴木幸雄の原審公判廷における証言及び被告人の一連の供述を総合すると、前認定のとおり、被告人が原判示の日時、場所において本件駐車場内のアイスクリームボックス上に置かれていた本件現金を手に取ったその時、鈴木幸雄が本件駐車場前に戻って来たこと、その際、被告人は、右アイスクリームボックスの前辺りにこれに向かって立っており、鈴木に声をかけられて振り向いたが、その時点でも、手に本件現金を持っており、直ちにこれを鈴木に渡そうとしたり、元の場所に戻そうとすることはなく、鈴木が近づいて手を伸ばしこれを奪い返そうとして初めて、被告人がその返還に応じたこと、すなわち、被告人が短時間とはいえ本件現金を握持しており、直ちにこれを手放すこともなかったことが認められる。しかも、本件駐車場は、前認定のとおり、本件当時、道路に面して開放され、人が現在しておらず、本件現金があったアイスクリームボックスは、歩道側端から約二メートルの位置を起点として奥に向かって置かれているなど、比較的緩やかな管理の下にあったこと、被告人が手にした本件現金は千円札一五枚が二つ折りにされた手のひらに入る程度のものであったことも考慮すると、被告人が本件現金を握持した時点をもってこれに対する占有を取得したものと解され、被告人の窃取行為は既遂に達したと認めるのが相当である。
(河辺義正 廣瀬健二 中谷雄二郎)